Archive for 5月, 2009
No.00490

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ポカポカと陽気な五月のある日、中澤修平は縁側で穏やか時間を過ごしていた。
教鞭を取っていた頃と異なり、忙しく新聞を斜め読みする必要もなくなった。
朝食を終えてゆっくり、隅から隅へと目を通す。
たまに見つける誤植に、ほくそ笑むことができる余裕ができた。
関西を席巻した新型インフルエンザも、終焉の兆しを見せている。
修学旅行のメッカ、京都の旅館に予約が戻りつつある記事が目についた。
何も急いですべてを読む必要はない。
丁寧に新聞をたたみ、外した老眼鏡を静かに置いた。
遠くを眺め、修学旅行の思い出を紐解いてみる。中澤修平は、そっと目を閉じた。
2年前の修学旅行が最後であった。定年前の私を随伴させてくれた、当時の校長に感謝する。
清水寺の門の前、定番の撮影位置に並んだ時、トンビが男子生徒の肩に糞を落としたこと、
思い出して口元をほころばせる。大騒ぎになって、撮影が中断されたっけ。
中澤は書斎に足を向け、アルバム冊子を手にして縁側に戻った。
幸い、修学旅行に随伴することが多かったせいか、生徒の思い出は修学旅行の写真であった。
量が増えること予測の範疇であり、あえて簡素な装丁のものを買い足した。
分厚いアルバムと両極のそれが、商品化される以前は妥協していたが。
最も手前にあったものをつかんだ。どうやら、それは最後の引率。2年前のものだ。
そうそう、こいつだ。観光客が興味本位で餌をやるものだから、京都のあちこちにトンビが出没。
社会問題にさえなった、と聞いている。写真の右端、斉藤だけが制服を脱いで撮影したんだ。
選りによって素行の悪かった斉藤だ、なんてトンビも知っていたのかもな。
そうそう、この夜に山村の財布がなくなる騒ぎがあったな。
女子の間で大騒ぎになって、八尾が疑われたんだった。母子家庭で貧しかったしな。
結局、自分のカバンから出てきて山村は泣いて詫び、八尾も気にしないでって事なきを得たんだ。
女子の部屋に行こうとした杉内が、とばっちりを受けたっけ。そうだった、そうだった。
これはっと。えっと16年前か。もう親になっている生徒もいるだろうな。
この写真、中山だったっけ?そうそう、中川だ。
こいつ、この後で外人観光客に道を聞かれて、泣きそうになってたな。懐かしいなァ。
そうそう渡辺が転んで、父親のカメラを壊したんだった。
この写真、下駄を履いてらァ。確か、先生は背が低いからって数人でお金を出し合って、
下駄を買ってくれたんだった。このあと、下駄を履いて歩いて足が痛かった覚えがあるよ。
そうそう、どうしても二人きりで写真を撮りたいって言うもんで、撮ったんだ。
父子家庭だったけど、いい母親になってるかなァ。誰だったかなァ、えっと、えっと・・・えっと。
「ただいまァ。すっかり遅くなったわ。野村さんの奥さんにつかまっちゃって、大変。
ごめんなさいねェ。お昼は簡単なものでいいかしら、お父さん?
お父さん、てばァ。あらイヤだ、またアルバム見ながら、うたた寝してるわ。」
縁側の向こう、薫風が綿帽子を散らした。飛んでいく種子、ちゃんと根付きますように。

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あとがき
当然ですが、すべての担任、フルネームで覚えております。
正しく教師をまっとうされた方には、退職金や恩給をはるかに凌ぐ財産があります。
生徒たちが身を立てて、逞しく生きている姿を見せてくれたら
その夜の晩酌は、どんなにおいしいことでしょう。
先生たち、ごめんなさいですm(_ _)m
最後まで、お読みいただきありがとうございました
No.00489

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「あ、新庄さん。左から自転車が来てます。」
「ありがとう。気がつかなかったわ。米沢さんて気が利くわね。」
デイ・サービスのワゴン車を待つ利用者が、庭に腰掛けて待っていた。
「村山さん、おはようございま~す。かなり待ちましたかァ?」
「長井さん、このタオルをたためばいいのですね?」
「そうなの。毎朝、これ全部をたたむのよ。結構、あるでしょ。」
「じゃ、私がやりますね。」
「酒田さん、やってくれる?助かるわ。じゃ、お願いね。急がなくていいからね。」
「あの~、何かすることないですか?」
無口な東根の後をついて回る、研修生の鶴岡。東根は黙々と作業をこなす。
取り替えた利用者のオムツを入れたポリ袋が、既に重そうだ。
「そうだね。今、手が離せないから終わったら呼ぶよ。休憩しといてくれる?」
スポーツで名を馳せた老人も、今では自力でトイレに行けなくなった。
殺しても死なない、と自らを笑っていた老人が脳梗塞で倒れる。半身不随が残った。
誇る記憶の泉が少しずつ枯渇、さっきの食事を忘れる老人。
人は必ず老いる。残酷にも、身体の自由を少しずつ奪っていく。
恒星の晩年、巨体を維持できず縮んでいく。
生きようとする、自らの引力がそうさせるのだ。
やがては光を反射できなくなる恒星のように、天寿をまっとうする瞬間まで、
人には生きる権利があるはずである。すべての人に、平等に与えられた太陽光である。
本来、家族が介護に当たるべきなのだろうが、個々に存する生活を脅かす。
介護のために自分を犠牲にする人が少なくないことも、忘れてはならないのだ。
施設にすがる行為は、あながち悲観的ではない。
利用者は少なくとも規則正しい生活が得られ、寂しさから開放されるのである。
家族と暮らし、送迎によりデイサービスを受ける利用者、入所し寝食をすべて委ねる、利用者。
施設はすべてを受け入れるが、慈善事業ではないため助成金を必要とする。
収入のない利用者が大半であり、介護保険制度の将来は決して明るくなかった。
ヘルパー資格者は多いが施設勤務者は少ない。ここにヘルパー不足、という不均衡が生じた。
施設側は当然にして、優秀な人材確保に情熱を注ぐ。
研修生の受け入れも、真の目的は定着させることにあった。
使えるヘルパー、そうでないヘルパー。正規社員たちは、すべて人事課長の目で見ている。
労働の汗、実はこんなところに真髄があるのかも知れない。
無策を続ければ、良質の介護は望めない。アメリカの介護事情が明日の日本なのだ。
当局が一日も早く取り組み、介護制度の改革が望まれる。
ふんぞり返っていても次の利用者は担当者、あなたなのだよ。
見るがいい。現場は、こんなに頑張っている。ここ、施設たんぽぽにも五月の薫風がそよいだ。

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あとがき
サービスが好きでヘルパーになる方、ほかに仕事がない、と思い込んでなる方、
リストラされてヘルパーなら、と考えた方。
いろんなヘルパーがいらっしゃいますが、天下り官僚と比較し
とても正当な報酬を受け取っているようには思えません。
社会貢献度に至っては逆転しているようにさえ、思えます。
退屈から、爪を切って1,000万円以上の年収をもらっている一方で、
利用者の爪を切ってあげて、時給1,000円程度の方もいらっしゃるのです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました
No.00488

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「しかし、おまえが国会議員になれるとはなァ。」
「そうだろ?望まずして難病をもらった人間の意見を聞いてもらえないだろうか、
と考えて立候補したら当選したんだから、おまえたちのお陰だよ。」
「ホント、まだ信じられないよ。おまえは俺たちの誇りだよ、まったく。」
子供の頃に手術、病院側の至らなさで嬉しくない輸血。
未だに解決方法が発見されていないまま、確実に時が過ぎていく。
死に物狂いで模索する厚生労働省の担当者たち。しかし実権を持つ人間には他人事。
身内が発症するまで、心の痛みを知ることはない。
「今や議員の先生だもんな。こうやって話ができるのも恐れ多いな。」
「やめてくれよ。ただ、みんなの代弁者、というだけじゃないか。」
「おまえのように頑張っている人間もいるのに、国会で、あのヤジは恥ずかしいよな。」
「おまえも、そう思うか。いや、正直がっかりしたんだ。」
国民の代表として論議を交わす立場でありながら、もはや品性の欠如を疑う余地のない行為、
誰も快く思っているはずがなかった。まさに日本人の恥としか言いようがない。
選挙権放棄という形で逃げていた若者でさえ、国民の恥と声を荒げるようになる。
介護現場の休憩でも、この話題があちこちで聞こえるようになったきた。
レジを済ませた主婦たちが台の上で、買った物を袋に詰めながらこの話題。
サラリーマンたちが昼食後のコーヒーで、この話題。営業マンは得意先で、まずこの話題。
元気な老人たち、ゲートボールでこの話題。静かなはずの図書館で、司書たちがひそひそ。
私語を慎めと教師、小学生に国会議員だって、とやり返されて言葉に詰まった。
「国会議員の行動に関する法律(通称:議員品格法)」の立法化は、
たった一人の議員が立ち上がったことで、論議が始まった。規制範囲に意見が白熱化する。
ヤジだけを規制することは簡単である。形而上の品格を問われた場合、観点の相違はどうか。
私生活に踏み込まれた場合、困る議員は少なくない。どこまで規制する気なのか。
とうとう衆議院で犠牲者が出た。立法化を前に、愛人を清算しようとしてリークされたのである。
マスコミは格好の題材に狂喜乱舞、愛人は独占インタビューののち、手記を出版した。
養子だった議員は、財界の実力者であった義父に離縁を宣告され、泣く泣く辞職。
安直にタクシードライバーへ転職を試みたが、甘くない。誰も彼の噂を聞かなくなった。
某中堅ゼネコンに献金疑惑で、東京地検による捜査の手が伸びる。
総務部長は観念し、すべて強迫によるもの、と大物議員の名を告げた。
ヤジを飛ばせば翌月から半額の687,500円に減額、コップの水をかけた議員は
期末手当718万円が没収された。今では誰もヤジを飛ばさなくなり、不気味なくらいである。
「いやァ、感心したよ。さすがだなァ。」
「実は俺、提議しただけなんだ。世論とは、こういうものなんだろうな。
大輪の花を咲かせるつもりはないさ。どうせ、長くはないことは分かっているんだ。」
病院の花壇に植えられた花が、小さく揺れる。五月の薫風が、議員の頬を撫でていった。

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あとがき
山高きが故に尊からず、という言葉があります。
権力や豊かさを手に入れた時、見失うのでしょうか。
その点、「暴れん坊将軍」の吉宗さんは、ご立派です。
偉い人なのに、ご馳走を食べずに庶民と同じモノを、め組の人たちと。
薬害エイズの無策、逃げる輩に「成敗」して欲しいです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました




