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Archive for 7月, 2010

No.00916

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「お父さん、お母さん。誠二の高校、快進撃ね。連日、新聞に載ってるわよ。」
「今月分の新聞なら、まだあるわよ。月曜日の古紙回収に出すつもりだけど。」
「よし、スクラップしといてやろう。あとで思い出になるからな。」
福津誠は段ボールの板をテーブルの上に敷き、カッターナイフで息子の記事を切り抜き始めた。

「あいたァ。」
「どうしたの、おとうさん?」
反射的に尋ねたが、娘の里奈は救急絆創膏の箱を既に持っていた。
「あ、いや、手を切った訳じゃないんだ。下の段まであるのに気付かず、切り離したんだ。」

「あなたの口癖ね。里奈が、お父さんは手を切ったのかって心配したのね。」
「ん?俺、何か誤解されるようなこと、言った?」
「もう、お父さんったらァ。じゃ、行ってくるね。頑張らないと、誠二と同級生になっちゃう。」
昨年の失敗を重ねないため、予備校に通う姉の里奈。弟は野球で推薦入学が見えている。

「昔に比べたら随分と楽になったものだわ。洗濯から乾燥までしてくれるし。」
「そうだな。食器洗い乾燥機で、手で洗うより汚れが落ちるもんな。そのまま乾燥してくれるし。
 お袋の頃は大変だったよ。洗濯機は世に出ていたが、うちは貧しくてな。随分、後だったな。」
午前中をのんびりと過ごした誠と、妻の多恵。昼は外食し、そのまま老人介護施設に顔を出した。

「あのォ、福津さんのご家庭では、何か特別な高菜ごはんとか、お作りになっていました?」
思いがけないヘルパーからの言葉に、2人は互いの顔を見合わせた。
「高菜ごはんは、特に変わったことはしていません。と、言うより義母は高菜が苦手で
 あまり作ったことがないように思います。その、高菜ごはんがどうかしたのですか?」

「福津さんは、あまりしゃべらないんですけど、たまにタカナメシってつぶやくんです。
 施設では時々、高菜ごはんをお出しするんですけど、ほとんど召し上がらなくて。 
 あ、うちのは鷹の爪を控えてあります。高齢者には刺激物を入れないようにしてますから。」
思い当たることが見つからないまま、施設を後にする。何だか、すっきりしない2人であった。

助手席の膝の上、多恵のバッグに入れた携帯電話が震える。施設に入る時、マナーモードに
したままであった。すぐに出ないものだから、相手もやきもきしていたであろう。
幸い、息子の誠二からであった。明日も弁当を作って欲しい、という他愛もない内容である。
「誠二、明日も弁当を作ってくれよ、だって。帰ったらご飯、炊かなくちゃ。」

「母さん、それだ。そうか、そうか。お袋の口癖だったんだ。思い出した、思い出したよ。」
「なァに、あなた?突然。いったい、何が分かったの?どんな口癖なの?」
「俺は男ばかりの3人兄弟だろ?孝も仁も育ち盛りで、よく食うんだよ。お袋が、メシを炊いても
 すぐになくなるから、また炊かないといけなかったんだ。服もすぐ汚すしさァ。」

「もしかして、高菜ごはんじゃなくて、炊かなメシってこと?」
「たぶん、そうなんだろう。認知症が進んだお袋が、昔の賑やかさを思い出したんだ、きっと。」
夕飯はみんなの茶碗に、高菜を載せる多恵。里奈と誠二に、来週の日曜は空けておくように指示。
「お義母さんのところへ行こうか。喜ぶわよ、きっと。ほら誠二、ご飯粒をこぼさないのよっ。」

 

 

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あとがき
「なくて七癖、あって四十八癖」などと言います。「しまった」と世間が言うところを、「しけた」と
言う上司がおりまして。要領が悪く、14時や15時頃に出前を頼むのです。
突然、「しけたァ。」部下たちが振り向き、対処を考えなければ、と「どうしたんですかっ?」
「チラシやのうて握りにしたらよかった。」「もう、課長!いい加減にしてくださいっ。」実話です^^

                             最後までお読みいただき、ありがとうございました





No.00915

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「連日、暑い日が続きますが皆様、お変わりありませんか?
 こちらは皆、元気でやっておりますのでご心配なく。
 穴子を送らせていただきますので、お召し上がりください。
 それでは皆様、お身体を大切に。かしこ。」ですって。姫路の早紀子さんからよ。

真知子の読む手紙を、みんなが聞いていた。12畳の茶の間に、この家の家族が集まっている。
吉見家の主人、善一。妻の真知子。長男の直樹。その妻、早苗。次男の正樹。長女の智美。
長男の娘、優奈。そして主人の母である、ひいばあのヨネであった。8人の大家族である。
都会では珍しいが、地方では親子4代の生活も珍しくなかったのである。

元々は農家であったが、今では誰一人として農業に従事していない。
先祖よりの田畑が多少あるものの、すべて小作人が引き受けてくれている。
小作人と言ってもかつての主従関係のようなものはなく、現在は小作人の取り分が大きい。
主人の亡父は村長の経験があり、就労者はみな公務員である。善一も定年で退官したばかりだ。

善一の妹、早紀子から今年も穴子のお中元が届いたところであった。夕食前に、読んだのである。
「それでは、いただきます。」「いただきま~す。」主人の音頭で、皆が箸を付ける。
一応、けじめを付けているが厳格だった亡父と違い、善一はあまり拘らなかった。
だが最も自由に行動しているのは、厳格な夫を持ったはずのひいばあ、ヨネである。

「ああん、ゆうなのトンカツ、取ったァ。」
「早く食べないからだよ。人生は強い者が勝つんだからねっ。いひひ。」
「だってゆうな、トンカツ大好きなんだも~ん。最後に食べようと思ったのにィ~。」
「もう、ひいばあ。意地汚いこと、なさらないでください。優奈はいつまでも言わないのっ。」

廊下歩いている家族の脚を引っ掛けたり、ひいばあは結構、いじわるである。
優奈とゲームをすることがあるが、たいていズルをして勝とうとする。
強く言えば年寄りを苛めるだの、老い先短いだの、始末に終えない。
後姿にぺろっと舌を出す。とんでもない婆なのであるが、どこか憎めないところがあった。

翌日の夕食に真知子が、冷やした茶碗蒸しを出した。いただいたばかりの穴子を使ったのである。
スプーンがないわ、と智美。あたし、取って来ますと早苗が言った。直樹は箸で食べている。
「茶碗蒸しにサジなんか、使わないんだよ。こうやって混ぜて、飲むのが作法さ。」
そんな下品なことできないわ、と智美が言う。早苗が、取って来たスプーンを配った。

茶の間にテレビを置いている家は少なくない。吉見家も例外ではなかった。
食事に全員が、同時に揃うことはない。テレビをつけていても、全員が揃えば消す決まりだ。
「あれ?ホントだ。ひいばあの言うとおりだ。茶碗蒸しは掻き混ぜて飲むのが、正式なんだって。」
朝の番組で、豆知識コーナーとして取り上げていた。正樹が口にする。何人かも見ていた。

「ひいばあは隣村の、良家の娘でね。作法とか習っていたんだ。戦前だけどね。
 あれ?ひいばあはまだ、起きて来ないのか?いつも一番に座っているのに。誰か呼んで来い。」
あたし、呼んできますと長男の妻、早苗が呼びに行く。悲鳴を聞いて、皆もひいばあの部屋に。
布団の真ん中、正しく仰臥している。眠っているかのようだった。枕元に、きちんと衣服をたたみ。

 

 

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あとがき
暑い日が続きますが、体調を崩していらっしゃいませんか?私も先日、不調でした。
こんな日に冷えた茶碗蒸しなど、おいしいですね。穴子とか入っていると最高です。
私は茶碗蒸しを、箸で食べるのが好きです。日本人なので箸が駆使できないと悔しいのです。
でも茶碗蒸しは、箸で掻き混ぜて飲むのが正式な作法だそうです。先日、テレビで見たところですが。

                             最後までお読みいただき、ありがとうございました





No.00914

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夏休みが始まり、喜ぶ人とそうでない人がいました。
一部の生徒は、夏休みどころか盆も正月もなく勉強しています。
遊んでいる子供たちを横目に見て我慢、肉を切らせて骨を断つ。いつか偉い人になるのです。
でもたいていの子供たちは、大はしゃぎです。待望の夏休み。さあて何して遊ぼうかな?

お母さんは大変です。給食がなくなり、子供たちに昼食の用意をしなければいけません。
普段は夕べの残り物を、ごはんにぶっかけて掻き込んだり漬物とふりかけだったり。
一部のお母さんは昼間からお肉ですが、たいていのお母さんは質素に過ごします。
でも子供たちは、そうは行きません。おなかすいたあ。おひるごはん、まあだあ?

「やかましい!どっか、遊びに行けェ~!」
あんまりうるさいのでタケシくんは、お母さんに怒鳴られてしまいました。
お昼まではまだ、2時間もあるんです。叱られても仕方がありませんね。
タケシくんは遊びに行くことにしました。お昼には帰られるよう、遠くには行けませんが。

ヒロシくんの家に行きました。さっきから呼んでいるのに、誰も返事がありません。
そうでした。ヒロシくんの家は、夏休みに入ってすぐ家族みんなで北海道に行ったのです。
ヒロシくんが夏休みの前に自慢していたのを、タケシくんは思い出しました。
「ちぇっ。いいなあ。ボクもどっか、行きたいなァ。」

次にカズトくんの家に行こうと思い、とぼとぼ歩きました。ぶっぶ~。前から車が来ます。
タケシくんの横で停まりました。開けた窓から顔を出したのは、カズトくんでした。
「よォ、タケシくん。今から遊園地に行くんだぜ。いいだろォ。じゃあなァ。」
車が段々と小さくなります。角を曲がって見えなくなりました。

諦めて家に帰ります。途中で蝉を捕まえました。ちょうどお母さんが、そうめんを用意しています。
「おにいちゃん、おかえりィ~。ごはんだから、手を洗ってきてねェ。」
「うるせえやァ。言われなくてもわかってらいっ。」
幼稚園のサエちゃんは、お母さんと家にいたのでした。3人で、そうめんを食べます。

「タケシ!食べたら出かけるよ。お婆ちゃんのところに行こうか。」
1時間近くバスに揺られ、3人で介護施設へ行きました。帰りは夕方になりました。
精肉会社に勤めるお父さんが帰ってきます。大好きなお父さんとお風呂に入り、ごはんを食べました。
テレビを見てのんびりしていると、お父さんが宿題はやったのか、と言います。

まだまだ夏休みは始まったばかり、とタケシくんが言うと一緒にやろうか、と言ってくれました。
嬉しくなってタケシくんは、苦手な国語の宿題を開きます。言葉の意味を書く宿題でした。
「肉親。これは簡単だよね。親ばかり肉を食べて子供に食べさせないことでしょ?
 ボクんちは違うよね。いつも、父ちゃんが持って帰って、ボクやサエにも食べさせてくれるもん。」

「ほお。タケシ、よく解ったな。さすがは父ちゃんの子だ。その調子、その調子。」
「えへへ。えっと次は、肉を切らせて骨を断つ。えっとえっと、何だっけかなァ。えっと。」
「それは子供には難しいな。スライサーのことだよ。ほら先週、父ちゃんが持って帰ったろ?
 骨付きカルビの肉は、スライサーという機械で切るんだよ。骨まで切れる、凄い機械なんだぞ。」

 

 

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あとがき
中国の古い言葉に「酒池肉林」というのがあります。この肉は、えっちな意味ではありません。
勘違いしてにへらにへら、していた人がいたので、念のため。
酒の池は飲み放題、ぶら下がる肉を食べ放題。怠惰な生活がその人をダメにしてしまいそうです。
下戸の人はイヤでしょうね。果汁肉林にしてくれんかね、と交渉するのかな?^^

                             最後までお読みいただき、ありがとうございました





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