No.00913
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那須高原の洒落た喫茶店。東京にも姉妹店がある、と聞いていた。
どのテーブルも、女と男が楽しそうに語らう。ただ2つのテーブルを残して。
少し離れた2つのテーブルは、どちらも2人用の正方形。
文庫本に目を落とす女、クロスワードパズルの雑誌に書き込む男。どちらも時折、ためいきを。
相手にすっぽかされたことは、とうに気付いていた。美和は、友人に送ってきてもらっている。
3時間後ね、と頼んであるため店を出る訳には行かない。時計を見た。あと1時間。
ぽきぽき、と先程からシャープペンシルの芯を折ってばかりいる。和茂は短気な方ではなかった。
クロスワードがさくさく解けている時は、気が紛れたものだったが。
美和は、近隣の町に住む。和茂は港町の出身だが、そう遠くない片田舎に下宿している。
雑誌の文通欄で知り合った相手と、那須高原のこの店で会うことになっていた。
美和が店に入る、ちょっと前に和茂はテーブルについていた。
お互いに相手が来ない。期待がやがて焦燥に変わり、落胆へとなりつつあった。
トイレに向かおうと席を立った美和が、和茂の足につまづく。よろけて両手を、和茂の肩についた。
和茂の足が、テーブルからほんの少しはみ出させてしまっていた。
ごめんなさい。こ、こちらこそ足を出しててごめん。あ、あの。は、はい、なんでしょう?
「ずっと、いらっしゃいますよね?待ち合わせだったのかな?」
「そのつもりだったんですけど、すっぽかされちゃったみたい。青いシャツと聞いていたんだけど。」
「実はボクも、そうなんです。文通していた女性とここで、初めて会うはずだったんですけどね。」
そう言ってクロスワードパズルの雑誌を閉じる和茂の苦笑い。白い歯が、きらりと光る。
「よ、よかったらおかけになりません?あの…その…ご迷惑でなければ、ですけど。」
「ご、ごめんなさい。すぐ戻ってきます。」
席に戻りポーチを携えて、トイレに向かう美和。口紅を引き直して、鏡の前で笑顔を作ってみる。
「お待たせしました。あと1時間くらいしかないけど、いいですか?」
店員に告げて、向こうのテーブルを引き払った。カップは既に空いていたし、覗き込めば同様だ。
店員を呼び、カプチーノを再注文する和茂。わたしも、同じのください。美和も再注文した。
名前だけの自己紹介を済ませた後、しばらく沈黙が続いた。お互い、何を話せば良いのか。
「何か、難しそうな本を読んでいらっしゃるのですね。ペストって言ったら、伝染病のあれしか
知らないなァ。あ、あ、ごめんなさいね。か、カミュは知ってます。飲んだこと、あります。」
「うふ。その伝染病の話ですわ。カミュってお酒、ありますよね。私は飲めないけど。」
ちっとも分だったがが、和茂は美和の話に終始、頷いた。和茂も自身の趣味を。美和が時計を見る。
「あ、せっかく注文したのに冷めちゃいましたね。もうすぐ彼が迎えに来るんですよね?」
2人ともカプチーノに手をつけるのを忘れていたようだ。和茂が、冷めたそれを口に運ぶ。
「ええ、5時の約束です。きっちりした性格だから、もう来るでしょう。あの、女性ですよ。」
窓から見えた赤い軽自動車を確かめると、美和が財布から小銭を出して置く。静かに立ち上がった。
あの、あの。また、会っていただけますか?そのひとことが言えず、和茂はまたパズルの本を取り出す。
扉が開く。帰ったはずの美和が、小さなメモの走り書きを持って和茂のテーブルへ近づいた。
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あとがき
珈琲をどうやって飲もうが、好きにすればいいと思います。
でも外来語のカプチーノって言えば、なんかお洒落に聞こえません?
外来語はそんな雰囲気がありますね。「ペスト」…どうです?お洒落じゃありません?
やっぱり、お洒落じゃないかなァ。カミュの最高傑作なんだけどなァ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました



こんなちょっとしたことから、付き合いが始まる、そんなこともありそうですね。
これもひとつの出会いなのでしょう。
でも和茂くんは、自分の思い違いに気づいていないのですね。
さあ、これは恋に発展するのでしょうか。
文通……そう言えば、昔はそういうことも。
メールとちがって手紙は、余裕と余韻を感じます。
言わずもがな、ですが。
訪問ありがとうございます☆
また遊びにきてくださいね(*´艸`*)