Posts Tagged ‘牡鹿半島’
No.00773
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打ち合わせのため、社長に続いて部屋に入る。社員が1人、作業をしていた。
「あ、すみません。すぐ出て行きます。」
広告を作成していたようだ。広いテーブルにいくつか商品を並べていた。
カメラは、私と同じ Nikon D90。そんなところで親近感を覚えるから不思議だ。
数度に分けて出入りし、慌てて商品をかたずける社員。
私たちの打ち合わせに、その社員の業務が先送りされる。何だか申し訳ない。
それだけ私を尊重してくださる、先方の誠意にも頭が下がる思いだ。
神戸から石巻まで呼んでくださったことに応えたい。私たちは、かたずくまで世間話。
「一応、できたんですけどね。画像が暗いでしょ。撮り直させていたんですよ。」
見せてもらった広告の商品が、暗くて印象が悪い。だが、違うところが気になった。
「この商品は在庫処分ですか?なんと3割引、と書いてありますが・・・」
「ああ、それね。少し古いんですよ。65%が損益分岐点ですね。」
画像は撮影し直しているのだから、任せておけばいいだろう。
私が気になったのは、なんとの文字でありその表現だ。果たしてお得感があるのか。
その商品が3割引販売されることが特別、珍しいのならいいと思う。
少なくとも都市部に於いて、多少の割引には動じない。8割引き9割引きも目にすることがある。
広告は感性である。東京ドームの10倍なんてキャッチコピーに、人は具体性を持つだろうか。
私だったら、せいぜい2倍が限界である。それ以上なら、ただ広い、としか思わない。
なんと、と書かれて共感を覚えるものだろうか。手前味噌の域を超えないような気がする。
サラリーマン時代、広告業務も関与していた。すぐさま訂正させた社長は、流石と言えよう。
私たちは打ち合わせを終えて、車に乗り込む。牡鹿半島に向かった。交渉先だ。
今回の出張で私はたいていの行動、首からカメラをぶら下げていた。
バッグにも交換レンズを携えている。交渉相手は、私のカメラに食い付いた。
約1時間の交渉、50分はカメラの話で盛り上がる。最後の10分、交渉に成功して帰路に。
信号待ちで私は、目を引く看板を見つけた。すぐさまカメラを取り出す。
撮影対象を見て社長がくすり、と微笑。ああ、ナンダコリャ丸ね。
信号が変わり、車が動き出すと同様に社長は私に、看板の説明を始めた。
「テレビでも何度か取材に来ている、遊覧船なんですよ。」
主人が愉快なかたでダジャレの連発らしい。乗り場の周りは笑わせる文字だらけだそうだ。
どうやら牡蠣養殖の経験を持ち、湾内の水深や特性に詳しい。
中身の濃い案内をなさるようで、おもしろくなければ御代は要らない、とまで豪語。
興味があるかたは行くのもいい、と思う。
「今からUターンして、行ってもいいですよ。」
仕事で来ているのに、いろいろと観光させてくれる社長だ。交渉が成功したせいもあろう。
せっかくですが、とお断りしておいた。興味がない訳ではないのだが、仕事をしておきたい。
それ以前に、ネーミングの大袈裟な感が否めなかった。先入観は、あなどれないと思う。
あとがき
耐性ができてしまうことも、良し悪しですね。
「びっくり」とかのキャッチコピーも、なんだその程度か、と思ってしまいます。
メールマガジンで1%引きの文字を見つけました。アホちゃうかって思います。
それを逆手に取ったのが1円オークションですね。もう釣られませんが A^^);
最後まで、お読みいただきありがとうございました
No.00768
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寒流と暖流がぶつかり合い、世界三大漁場とも言われている海域。
牡鹿半島は宮城県北部、太平洋側に突き出ている。金華山という島は、その先にある。
鮎川港までは、仙台から車で2時間ほど。1時間半かかるが、石巻からバスも出ている。
島へは定期運行便を用いる。鮎川港から約20分の航行だ。
島全体が黄金山神社の神域となっている金華山。
恐山、出羽三山と並んで「奥州三霊場」に数えられている。
金が産出した鉱山であり、海を守る神を崇めている神社でもあるようだ。
島には多数の鹿が、神の使いとして保護されて生息している。
「三年続けてお参りすれば、一生お金に困ることはない」という言い伝えがあり、
そのために訪れる参拝客も少なくないらしい。
神仏への信仰心の薄い、罰当たりな私はこの辺りに疑問を抱く。
信仰心を否定するつもりはない。憲法でも保障されているとおり、信仰は自由なのだ。
11月に京都へ行った時、清水寺への不満をタクシードライバーから耳にした。
個人的な感情論や利害関係が介在した場合は別として、不満はひとつの意見である。
彼が言うところによると、京都来訪者の恐らく半数は清水寺に参詣するだろう。
それは優れた営業力によるものであり、ご利益ではないらしい。
日本での仏教は、いくつもの宗派に別かれている。
曹洞宗、臨済宗、真言宗、天台宗、浄土宗、浄土真宗、日蓮宗など、ざっと挙げてみた。
それなりに得心させられるものがあるのだが、清水寺の宗派は何なのだろう。
様々な御題目があちらこちらに書かれているため、何だか混乱してくるのである。
大阪府北部には勝尾寺という宗教施設がある。私も何度か参詣させていただいた。
元日の参詣者は凄まじい数であり、駐車場に入るのも一苦労。出たら財布が空っぽに。
やっと中に入ると至る所に賽銭箱があり、いろんな宗派の設備が用意されている。
なかでも興味を持ったのは、簡易版四国八十八箇所巡りの設備である。
今でもあるのか知らないが、片足ずつ踏めば四国八十八箇所を参ったことになるらしい。
実際に四国八十八箇所を巡れば、かなりの財力と体力を要するだろう。
御利益とは、そこへ赴くだけで十分に授かるような気がする。健康増進のためのみならず、
途中の景色や食事は楽しいはずであり、思い出という知的財産まで授かるのだ。
花は美しい。だが邪心が働けば気付かぬうちに踏み躙る。いただく食事に、手を合わす余裕が
ない者に御利益など、とんでもない。御利益は、参詣者の心に生まれるものではなかろうか。
森羅万象に感謝を忘れなければ、自ずと幸せな気分になれる。神仏は媒体に過ぎないのだ。
多少高額であっても、そこに売られているからこそ購入できる。感謝、感謝。
金華山まで参詣するのは並大抵ではなかろう。わざわざ参詣する気持ちが、既に御利益なのだ。
せっかく来たのだから、土産物を物色。いい物を見つけた。同様の市販品より高いかも。
「おっさん。2つ買うさかいに100円、負けてんか?」
そう言いかけてやめた。心の暖流と寒流がぶつかっている。六根清浄、六根清浄。
あとがき
牡鹿半島では、多数の方にお世話になりました。感謝の念に絶えません。
さて2月28日の地震津波が、全国有数の出荷量を誇る宮城県内の養殖漁場を直撃しました。
牡鹿半島以外でも三陸海岸に於いて、かなりの被害が出てしまったようです。
関係者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。
最後まで、お読みいただきありがとうございました
No.00766
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「来週の日曜、ひなの誕生日だろ。金華山へ連れてってやるよ。」
「連れてってやる、だとォ?デートしてくれ、の間違いじゃね?」
「ば~か!何、自惚れてんだよ。行くんだろ?空けとけよ。じゃあな。」
「しゃあないっ。行ってやるか。気をつけてね。」
玄関先に停めた車の窓を開け、若林徹人が話しかけた。
新聞を取りに出た日向子を運よく見かけて、車から降りずに済んだようである。
東京の大学を卒業し、地元の仙台で就職した徹人は幼馴染。
大変だ。私も学校に行かなきゃ。学校と言っても、今は教師なので職場だ。
これが社会人の嗜みなら、社会人になりたくない、とさえ思った。
鏡を見つめ、テレビCMのようには行かない現実を恨んだ木下日向子である。
化粧品にお金を遣うこと自体、釈然としないのだから仕方がない。
当然、化粧の仕方もよく分からないままであった。
「葛岡先生!アバターの映画が評判ですけど、生徒の影響はどうでしょうか。」
「私も考えていたところですよ、国見先生。日曜に視察しませんか?」
「日曜なら大丈夫ですよ。そうだ、木下先生もいかがですか?」
家事がございまして、と素っ気ない日向子。先輩教師の誘いがあるのも、今のうちなのだが。
「何だよ、テツ~!聖和幼稚園の前に8時って言ったくせにィ。」
10分前から立っているから、寒さが身にしみる。電話しようか、と思った時に車が。
「おはよ!乗れよ。」
現れた徹人に遅い、といきなり。実際には、2分過ぎたばかりだったのだが。
助手席のドアを閉めてすぐ、徹人の左手が伸びてきた。どきり、とする日向子。
その左手が日向子の首、後ろに伸びたと思ったらヘッドレストを掴んだ。
日向子と自分の席の間から後方を見て、車をバックさせる徹人が油断したのか口を緩めた。
白い歯の先が、そしてその奥に見える舌の先が、日向子の心を騒がせる。
県道を真っ直ぐ東へ走り4号線も超えた。仙台東ICから仙台東部道路に乗る。
「カレシ、できたか?」
車のラジオが何やら音楽を続ける以外、それまで静かだった。
「やっと口を開いたか、と思ったらァ。そんなもの、いないわよっ。」
また黙り込む徹人。言った後で、いつの間にか自分の中で大きくなっている存在に気付く。
ただの幼馴染を誘ったのだが、考えてみれば誕生日に自分と過ごしている。
それは日向子も同じであった。徹人が大学に行ったあと、存在すら忘れていたのに。
三陸自動車道から石巻市内に入り、渡波から県道を牡鹿半島に向かう。
信号待ちで互いの名前を、ほぼ同時に呼んだ。青に変わる。どちらも次の言葉が出ない。
続くカーブ、運転に集中しているようだ。前を向いたままの日向子は、景色さえ見えていない。
何も話さないまま鮎川港に着き、定期運行便に乗る。船の中でも二人は話さない。
金華山に到着。先に降りた徹人が振り返った時、足を取られた日向子が徹人の胸に倒れ込んだ。
あとがき
船はねえ、ロマンチックでないとダメなんですよ。
悪酔いとか、考えちゃいけないんです。船酔いする人間は、乗ってはいけないんですよね。
まして釣りに行って酔うなんて、最低じゃありませんか。
それでも、また乗るんですか?懲りないですね。また、ふられたんでしょ?…おらぢゃねえべ^^
最後まで、お読みいただきありがとうございました





